はじめに:1月校は「前哨戦」だけの存在ではなくなった
首都圏の中学受験において、1月校(埼玉・千葉の学校、および東京の一部の学校)は、長らく2月本番に向けた「前哨戦」と位置づけられてきました。本番に近い緊張感を経験し、合格通知で自信をつける場です。
ところが、近年の受験生を指導していると、この位置づけが確実に変わってきていることを実感します。1月入試は、2月の首都圏入試と同様の競争が起きる入試へと変化しています。
1月校が担ってきた3つの役割(今も有効です)
- 本番に近い緊張感の経験:試験会場、時間配分、初対面の環境での実力発揮を事前に体験できます。
- 合格通知による心理的な安定:「どこかに受かっている」という事実が、2月の受験生を支えます。
- 直前期の弱点の確認:実際の出題から、最後の修正点が見えてきます。
これらの価値は変わりません。変わったのは、その「上に」もう一つの役割が加わっている点です。
変化①:「練習」から「進学先の候補」へ
- 首都圏郊外の1月校に実際に進学する生徒が増えています。
- 併願戦略の幅が広がり、早い段階で進学先を確保する設計が現実的になっています。
- 1月校が「安全校」ではなく、教育内容を評価して選ぶ「魅力ある進学先」として見られるようになっています。
背景には、中学受験の競争が年々厳しくなり、安心材料を確保しておきたいという保護者の心理があります。
変化②:出願校数に表れる家庭の戦略
1月校の位置づけの変化は、数字にもはっきり表れています。
ONETES(首都圏模試センター)の推定(2026年2月時点の暫定版)によると、首都圏の私立・国立中学受験における1人あたりの平均出願校数は、2026年入試で男子8.00校、女子7.50校、男女合計7.76校となり、近年上昇傾向にあります。直近4年の推移は次のとおりです。
| 年 | 男子 | 女子 | 男女合計 |
|---|---|---|---|
| 2023 | 6.93校 | 6.91校 | 6.92校 |
| 2024 | 7.34校 | 7.03校 | 7.19校 |
| 2025 | 7.67校 | 7.19校 | 7.44校 |
| 2026 | 8.00校 | 7.50校 | 7.76校 |
3年間で、平均出願校数は約0.8校増えました。しかも男女とも増加しています。
・男子の「合格率の低さ」だけでは説明がつかない
男子で出願が増える理由は、需給から説明できます。同じ推定で、総定員を実受験生数で割った合格率は男子84.4%、女子106.0%、男女合計94.7%で、とくに男子が厳しい状況です。受験生の数に対して席が足りない以上、男子の出願が増えるのは自然な流れです。
しかし、定員に余裕のある女子でも出願校数は増えています。つまり、需給の逼迫だけでは説明できません。私は、その背景に「確実に合格を持っておきたい」という安全志向と、1月校の受験が定着したことがあると見ています。
・この数字は「1月校の数」ではない
ここで注意していただきたいのは、この平均出願校数が1月から2月までの全出願を含む数字だということです。1月校だけの内訳ではありません。ただ、1月校を受けること自体が当たり前になった今、この数字が押し上げられているのは間違いないでしょう。
・平均7.76校は「目標値」ではない
この数字を見て、「うちは少ないのでは」と不安になる保護者の方もいます。しかし、平均出願校数は周囲の動向を示すだけで、お子さんに適した数を示すものではありません。
出願は、2月に入る前の段階でも、お子さんの体力と集中力を確実に消費します。出願数が増えても、受験できる日は限られています。そこで私は、出願する前に、次の問いに答えられるかを確認するようお勧めしています。
- その1校は、どんな役割の受験か(実力の確認、本番の練習、進学先の確保、挑戦のうちどれか)
- 不合格だった場合、次の受験の計画をどう変えるか
- 合格した場合、実際に通うことを想定しているか
役割を一言で説明できない出願は、数を増やしても安心材料にはなりません。
出願校数は、ご家庭が2月までをどう設計しているかを映す数字です。数を追うのではなく、1校ごとに理由を持って組み立てることが、1月校を本当に活かす併願戦略になります。
1月校を増やしすぎたときのリスク
- 体調面のリスク:連日の受験が続くと、消耗が本番の2月に響きます。
- 不合格のダメージ:想定外の結果が、お子さんの自己肯定感と2月の意欲を下げることがあります。
- 本命校に向けた集中力の分散:1月校の対策に時間を割くほど、本命の過去問演習や弱点補強に使える時間は減ります。
1月校の受験数を決めるための3つの視点
- 目的の明確化:「経験を積む」のか「進学先を確保する」のか。目的によって、選ぶ学校も受験数も変わります。
- 本命校との距離:出題形式や難度が本命に近いほど、練習効果は高くなります。一方、傾向が大きく異なる場合は、対策の負担が増えます。
- お子さんの消耗度と回復力:受験日程が連続しても、切り替えられる子と引きずる子がいます。日頃の様子から見極めてください。
まとめ
1月校の位置づけに、唯一の正解はありません。「練習の場」も「通学の候補」も、どちらも合理的な選択です。重要なのは、その選択がご家庭の戦略として説明できることです。
出願校数は、その戦略を映す数字です。周囲の動向は参考にしつつ、お子さんの状態と志望校に照らして、ご家庭ごとに設計してください。お子さんが安心して2月を迎えることが、1月校を活用する最大の目的です。


